【記事のご紹介】駐ミクロネシア日本大使の声
筆者:駐ミクロネシア日本国大使 堀江 良一
今年は、日本とミクロネシア連邦が外交関係を開設して30年になる。両国関係の歴史と現状について考えてみたい。
ミクロネシア地域は、ほぼ赤道以北、日付変更線の西側に位置し、5つの独立国と米準州のグアム、米自治領の北マリアナ諸島からなる。このうち、ミクロネシア連邦、パラオ、マーシャル諸島の3か国と北マリアナ諸島は戦前・戦中の約30年間、日本が統治していた。3か国は、戦後の米信託統治領の時代を経て、米国とそれぞれ「コンパクト」と呼ばれる自由連合盟約を結んで独立した。
日本統治の名残は、多くの戦跡に加え、食生活や言語にも見られる。米、醤油、刺身はミクロネシア人の大好物。「ジドウシャ」「デンキ」など彼らが今でも口にする日本語は実に多い。日本からの移民は1890年代に始まった。前大統領のモリ氏は高知県から移民した森小弁氏のひ孫だ。現在でも国民の約2割は日系人と言われる。
ミクロネシア人は、極めて親日的で、多くの人が日本統治時代の良さを指摘する。この地域は当時、国際連盟委任統治領で、初の本格的な公教育が導入され、経済発展した。一方で、特に終戦前後は多くの住民が苦難を経験した。現地の女性と結婚した日本人男性が戦後、家族を残して日本に強制送還されたケースは数知れない。しかし、寛容な母系社会を基本とするミクロネシアに残された日本人の子孫たちは、母方の大家族制度の中で大事に育てられ、社会で活躍する人材に育っていった。政界、経済界で活躍する日系人は枚挙に暇がない。
日本政府は毎年、ミクロネシアから多くの若者を日本に招き、帰国後に感想文を送ってもらっている。そのうちの1人の女子学生の感想文が強く印象に残っている。「自分は祖父母から日本統治時代のひどさを聞、日本は怖い国だという印象を持っていたが、訪日後、日本を好きになった。原爆の被害を受けた広島の復興にも感激した」という趣旨の内容だった。このような若い世代の交流はとても重要だと思う。
ミクロネシア連邦は1986年の独立時に米国と結んだコンパクトで、国防・安全保障を米国に委ねた。パラオもマーシャル諸島も同様だ。日本の南に広がるミクロネシア地域の広大な海の平和と安定にとって、米国の関与は死活的に重要だ。法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」を維持していく上でも、極めて重要である。
ミクロネシアの当面の最重要課題は国家財政だ。改定されたコンパクトに基づき米国から多額の財政援助(現在は国家歳入の約35%)を受けているが、2023年に終了する。その後の自立的な国家経済運営に向け、日本も開発援助を継続していく必要がある。
日本は、1997年以来3年ごとに太平洋の島嶼国と首脳会議を開いており、第8回太平洋・島サミットは今年5月、福島県いわき市で行われた。首脳宣言には「今後3年間で5,000人以上の人材育成・人的交流の実施」も明記された。ミクロネシアを含む太平洋が「自由で開かれた」平和の海であり続けること、そして、若い世代を始めとする交流がますます活発化することを期待したい。
(2018年7月20日 読売新聞「論点」掲載)
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