一般財団法人 国際協力推進協会
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第7回APIC国際懇話会

第7回APIC国際懇話会

7月19日から23日の間、大統領を2期勤めて本年5月に退任したミクロネシア連邦のエマニュエル・マニー・モリ氏が来日しました。上智大学とAPICの招待によるものです。モリ前大統領は21日、上智大学で開催された「太平洋地域における環境保全シンポジウム」("Working Together towards Sustainable Island Futures”)において基調講演を行い、翌22日、APIC第7回国際協力懇話会にてスピーチを行いました。

 滞在中は、上智大学高祖敏明理事長、早下隆士学長と懇談したほか、外務省において城内実外務副大臣と会談し、日本ミクロネシア議員連盟会長の古屋圭司衆院議員とも懇談を行いました。

 7月21日に行われた「太平洋地域における環境保全シンポジウム」(上智大学・APIC共催)では、ミクロネシアにおける環境保全をどのように進めるべきか、さらには、太平洋島嶼国と日本とのパートナーシップをどのように促進すべきかの第1回目の対話として、活発な討議が行われました。

 冒頭に、モリ前大統領から基調講演(Keynote Lecture)においてミクロネシアと日本の伝統的な関係、両国の深化する友好関係の現状についての説明があり、これらをもとに、とくに環境問題を含めて両国の友好関係を今後どのように促進していくのかという問題提起がありました。

 講演の後には、上智大学大学院地球環境学研究科あん・まくどなるど教授をモダレーターに、3人の専門家によるパネル・ディスカッションが行われました。

 7月22日、来日中の同前大統領は、ゲスト・スピーカーとして招かれたAPIC国際協力懇話会において「ミクロネシアと日本の深化する関係」と題して講演しました。また、出席者からの質問に答えて、知られていることの少ないミクロネシアにつき丁寧に解説して感銘を与えました。

国際協力懇話会におけるモリ前大統領講演

 APICと上智大学の招待で来日したミクロネシア連邦の前大統領エマニュエル・マニー・モリ氏は7月22日開催の「第7回APIC国際協力懇話会」にゲスト・スピーカーとして出席、「ミクロネシアと日本の深まる関係」と題して両国の友好関係について大統領の経験を踏まえて自分の所信を語りました。

 当日同懇話会には、日本を代表する経済界・国際関係団体・外交団の代表など約40名が出席しました。歴史的に極めて緊密で近隣の国であるにもかかわらず、日本では知られることの少ないミクロネシアについて、初めて、前大統領から直接話を聞くことができたと出席者からは高い評価が出ました。講演後に前大統領は出席者の質問に答え、ミクロネシアの現状について丁寧な説明を行いました。さらに、出席したミクロネシア研究の第一人者小林泉大阪学院大学教授を指名し、同教授の見解を述べるよう促しました。

モリ前大統領スピーチの概要

曽祖父森小弁がミクロネシアへ移住


 現在の日本とミクロネシアの関係を理解するために、さらには日本人とミクロネシア人がなぜお互いに親近感を感じるのかを理解するためには、1800年代(明治時代)に戻る必要がある。

 1800年代後半、貿易取引の機会を求めて南洋に乗り出していった日本の冒険家の一群がいたが、そのうちの一人が高知県出身の森小弁(もり こべん)、つまり、私の曽祖父だった。森小弁は、ミクロネシアのトラック環礁(チューク)で働き、やがて現地の首長の娘と結婚、11人の子供をもうけた。

 当時、ミクロネシア諸島はスペイン領であったが、1898年にドイツに割譲、さらに、第一次世界大戦勃発(1914年)に当たって、日本(海軍)が占領した。さらに第一次世界大戦後、国際連盟によって日本の統治が「国際連盟委任統治領」として正式に認められた。 このように昔から続く二国間の人々の血縁関係が、(現在両政府が推進している)ミクロネシアと日本の友好協力プロジェクト「キズナ(絆)プロジェクト」の重要な基礎となっていることを強調したい。

いまに残る日本の影響


 当時、チューク(Chuuk)だけを見ても、在留邦人の人口は約3000人だった。その後、第二次世界大戦中はさらに増加し、4000人を超えた。これは、現地住民の人口をも超える人数であったと言われている。

 日本人の工夫する能力や知恵が現地の貿易を拡大させることに役立った。例えば、日本人によって興されたサトウキビ栽培や魚の加工(カツオ節生産)など。しかしながら、第二次世界大戦後(1945年)の日本人兵・住民の本国送還によって、ミクロネシアにおける経済活動・貿易は全く衰退してしまった。

 第二次世界大戦後、パラオ、サイパン、ヤップ、チューク、ポンペイ、マーシャル諸島からなるミクロネシアの島々は「国連信託統治領」としてアメリカの管理下に置かれた。第二次世界大戦後、日本人はこれらの島々を去ったが、言語、食、企業家精神といった日本文化の一部は残った。

ミクロネシア独立と日本との関係


 1979年太平洋諸島信託統治領は4つの政治的実体に分裂した。その一つであるミクロネシア連邦は独自の立憲体制をもち、1986年に主権国家となった。1988年、ミクロネシア連邦は日本と正式な外交関係を樹立し、昨年は外交関係樹立25周年の歴史的なイベントを祝った。われわれは、その機会に重要な地域的・国際的な問題について相互協力する意欲を確認した。それらは、例えば、安全保障問題とテロ、気候変動と地球温暖化、貧困と開発、日本が国連の安全保障理事会常任理事国となるための支援などだ。

 日本は、アメリカと並んで、われわれの最も親密な二つの同盟国の一つだ。日本の関心は漁業だったが、また、この地域の安全保障問題にも関心を持っており、アメリカやそのほかの同盟国と安全保障面で協力を行っている。現在、北部太平洋が政治的にホットな地域となっているが、もし、日本とアメリカが、われわれのような小国ミクロネシアに関心を示さなかったとしたら、われわれは他の「大国」の影響を受けて、その「大国」の援助を受け入れ、(外交政策で)異なった方向を進み、結果として、(問題の)解決より、問題の一部になってしまうであろうというのが私の強く感じているところである。

なぜ両国の友好関係が重要か


 それでは、「なぜ、この日本・ミクロネシア友好関係が日本人及びミクロネシアの人々にとって重要であるか」の点について。ご出席の皆さんが考えを纏めるためのヒントとして次の項目をあげる。

①日本人とミクロネシア人は何れも島国の人々であり、海人だ。そこでは、「海はわれわれを隔てるものではなく、つなげるもの、そしてわれわれを強くするもの」である。われわれの文化は共有する地理的な特徴によって形づけられるが、それは、海であり、資源だ。両国民とも魚を好み、様々な種類の海産物を食べる。

②われわれは何れも、新たな場所を発見することに対して冒険心をもっていた。つまり、ミクロネシア人も日本人も、(大陸から海で離れた)世界のこの地域に、冒険心をもってたどり着いたということだ。われわれの祖先は星や太陽、風、海流、波といった(近代の)計測機器でないものを用いて(自然の目じるしを利用して)航海術を学んできた。

③日本人は、ミクロネシアにおいて子孫に文化や言語の一部を残した。例えば、「マチコ」、「ミチコ」、「モリ」、「ナカムラ」、「マツタロウ」、「ルリコ」「ヨシヒロ」などの日本名、スポーツに関する「ウンドウカイ」、「椅子リレー」、「ハバトビ」、「百メーター」、「三段跳ビ」、食に関する言葉「テリヤキ」、「スキヤキ」、「ミソ」、「オシルコ」、「サシミ」、「ヤキソバ」、個人の持ち物では「ハラマキ」、「乳バンド」、「オビ」「メガネ」、などが挙げられる。より重要なことはミクロネシア地域が世界で最大の漁業海域の一つである。日本人もミクロネシア人も多くの魚、あらゆる海産物を食べるので、われわれの漁業権益を守る努力で協力することに繋がるはずだ。


二国間の関係強化のため


 「日本とミクロネシアの関係を深化し、強化し、持続させるためには何ができるか」について述べたい。

 本年4月、天皇・皇后両陛下がパラオを公式訪問したが、両陛下をお迎えするために、パラオ共和国大統領夫妻のみならず、マーシャル諸島共和国大統領夫妻、ミクロネシア連邦大統領夫妻がパラオに赴きご挨拶を行った。

 パラオ大統領主催歓迎ディナーにおいて、天皇陛下が「日本がミクロネシアの三つの国々との外交を樹立してから二十年以上が経過しました。私たちの関係、特に漁業、観光の分野において深まっているところを目にすることが出来て大変うれしく思います。日本と各国が関わることで将来のさらなる繁栄を願っています」と述べられた。

 ミクロネシア人の私にとって、パラオ共和国の首都コロール(Koror Palau)の歓迎ディナーにおける天皇陛下の優しいお言葉は、日本とミクロネシア間のよき友好関係を維持するという相互の望みを現していると思う。それゆえに、以下のプログラムは日本とミクロネシアの双方の政府によってさらに促進されるべきだと考える。

<キズナ・プログラム>

 キズナ(絆)・プログラムは、人々と人々、生徒と生徒、文化交流、ボランティアを通して強まっている。これは、われわれの国の間の絆、結びつきを強化させるに相違ない。

<ミクロネシアの対日支援>

 ミクロネシア連邦は、(アジア・太平洋の)地域的な場、国際的な場において日本を支持し続ける。さらに、日本がドイツとともに国連安保理の常任理事国になることを支持する。日米はかつて敵であったが、現在では地域的・国際的な問題の解決にあたって太平洋における極めて密接な同盟国となっている。

<日本のミクロネシア支援>

 日本は、これまでミクロネシア連邦の経済・社会開発を支援してきたが、これからも、港湾施設や道路建設などのインフラの投資、ボランティアの精神の下での草の根レベルの市民社会支援を続けるべきだと思う。さらに重要なことは、日本は、小規模・中規模投資家による観光業、水産養殖、漁業、再生利用エネルギーへ投資を行い、(日本の)良き経営マネージメントの技術、簡潔な実用的技術の活用を教え、ミクロネシア側と共有することを推奨すべきである。日本の小規模投資家が、これまでに日本政府が極めて寛大な無償資金支援により建設してきたインフラを十分に活用して、ミクロネシア側と合弁企業を設置することは合理的な考えだと思う。

質疑応答

Q:人と人との関係について質問したい。ミクロネシア連邦の主な産業は観光であるが、ミクロネシアと日本との間で人々がより容易に行き来できるようになるため、つまり相手国に対する門戸を広くするためにはどうすべきか。

A:ミクロネシア人と日本人が一体となって取り組む必要があるだろう。なぜならば、ミクロネシア人だけでミクロネシアの土地を有効利用できるわけではないからである。

 隣国パラオは観光客で賑わっている。そもそも、(投資を通じて経済進出する際、)ホテル建設と航空路の設置は必ずしも一体ではない。ホテル業者と航空会社は相互不信もある。そこでパラオは如何にしたかと言うと、ホテル建設については台湾資本を招致した。そこで完成したホテルの運営は日本人に任せた。日本人がホテルを管理し、観光の促進を行った。その結果、日本人観光客が多数訪問するようになった。パラオ大統領は「これが、私が望んでいたことだ」と喜んでいる。

 パラオは一つの国であるから簡単である。しかし、ミクロネシア連邦は、行政単位として、4州、即ち、ポンペイ、チューク、ヤップ、コスラユの4つの(独立意識の高い)州から成り立っており、それぞれに州知事がいる。各州知事は、州独自の考え方を持っており、私が観光促進に熱心であったのに対して、4州知事はあまり熱心でなかった。これが、パラオと異なり、ミクロネシア連邦の抱えている難しい問題である。

 ミクロネシア連邦では、ホテル開発においては民間部門で日本とのパートナーシップを強めていきたい。そうすれば、日本人観光客がパラオのように訪れるようになるだろう。日本及びミクロネシア国民は何れも魚を食べ、海が好きであるといった文化的相似点がある。これはミクロネシア連邦の魅力の一つになるかも知れない。他方、パラオとはライバル関係になる。ミクロネシア連邦には利点、弱点はあるだろうがなんとかして観光業を発達させていきたい。

Q:二国間協力、多国間協力について質問したい。豪州、ニュージーランドは、南太平洋島嶼国と強い結びつきがあり、多くの支援を行っている。日本は、マーシャル諸島やミクロネシア連邦、パラオ共和国(の北太平洋島嶼国)と強い結びつきを持っている。だが、太平洋諸国の中で北と南の間で少し協力が足りないのではないかと思う。

 日本、豪州、ニュージーランドは太平洋において多角的な協力を目指しているが、太平洋島嶼国側が一体となるために何が必要だろうか。支援を受ける側として、日・豪・NZからの支援について何か提案はあるか。


A: 日本政府の寛大な支援を最大限に活用したい。自分が政権を担当していた時に、ミクロネシア連邦を発展させるために計画をたて、目標を設定したにも関わらず、それを達成できなかったことが極めて残念であった。自分は日本政府に対して「辛抱強く私たちを待っていてください」とお願いした。なぜなら、2023年には米国のコンパクト財政支援が終わるからである。もし、財政支援が延長されるとしても、支援レベルは低下するであろう。既にその兆候があらわれてきている。

 (コンパクト支援が終了する)時が来たら、私たちは目覚めなければならない。それまでに米国や日本からの寛大な援助を最大限に活用していかなければならない。国の指導者として、国家開発、とくに経済開発を達成しなければならない。米国および日本からはインフラ部門で支援を受けてきて、とくに日本からは港湾施設、空港、道路、上水道への投資が行われている。その多くは活用しているが、インフラ整備はまだ十分であるとは言えない。

 ミクロネシア連邦の最大の問題点は、「土地問題」である。自分は銀行の経営者であったが、「土地」については複雑な権利関係があり、開発を阻害している。日本に引き続きお願いしたいことは、(経営の)マネジメント、ノウハウ、単純で実用的な知識をミクロネシア側に移転して戴きたいことである。質問の直接の回答になっていなくて申し訳ない。


小林泉教授コメント

 モリ前大統領は講演の中で、ミクロネシアに造詣の深い大阪学院大学の小林泉教授(一般社団法人太平洋協会理事長)を壇上に招いて、同教授の所見を述べるように促した。以下、小林教授のコメント。

1. 経済の自立性

①ミクロネシア連邦の経済は、現在は、ほとんど米国のコンパクト(自由連合盟約)による財政支援(Compact Money)で運営されている。

②そもそも米国とのコンパクトについては、1986年から15年間の財政支援でミクロネシア連邦が経済的に自立することを目指したものであった。最初の5年間で準備を行い、次の5年間でほぼ軌道に乗せて、最後の5年間で経済的に”take off”する計画であった。しかし、15年経っても経済の状況は変わらなかった。

③そのために、米国とミクロネシア連邦はさらに20年間コンパクトの財政支援の期間を伸ばし、その後ミクロネシア連邦が経済運営を自立させることとした。この改訂コンパクトによる財政支援が2023年に期限切れとなる。

④ミクロネシア連邦のように(経済開発の)条件が悪い小さな国では、大きな国の真似をしていくら投資をしてもダメなものはダメであるということが分かった。ミクロネシア連邦を東南アジアと同じように見立てて、これらの成功例を用いてもうまくいかない。これは、ミクロネシア連邦に限ったことではなく、ポリネシアのような小さな島嶼国についても同様のことが言える。したがって、ミクロネシア連邦やその他の小島嶼国については(経済開発の)条件が悪いことを認めて、その国に合った開発をしていく必要がある。

2. 日本の支援の方途

① ミクロネシア連邦は4つの州から構成されている。4つの州は、それぞれサイズが小さく、様々な問題を抱えている。

② (自分はミクロネシアに関係して)40年間考えてきた。これまでにも外務省やJICAの担当が、(人事交替の都度)新しいアイデアを何とか活かして(ミクロネシア支援)問題を解決しようとしてきた。条件を一つ一つクリアしていく過程で分かってきたことがある。それは、日本のノウハウ・投資システムを活用し、また日本と交流する際に、日本が援助するだけではなく、例えば人材を日本に招き日本で学んで貰ったり、日本で就労できるような取組が必要である、ということである。単にお金を与え、その国で自立させようとする方法ではもはや十分であるとは言えない。むしろ、今まで考えもしなかった援助の方法、例えばミクロネシアからの移民へのビザ取得の緩和など、ミクロネシアと日本が一体となって取り組むことが大切である。

③ モリ前大統領がスピーチで述べた「交流」に関して補足すると、これは単なる「文化交流」ではなく、様々なビジネスや若者達を巻き込んだ交流とし、政治的な国境、実質的な人間の流れの国境を外していくことが期待される。

④ 2023年で、ミクロネシア連邦は米国の財政支援(Compact Money)が切れるが、ミクロネシアと日本は歴史的な深い関係があるのであるから、今後と両国が変わらずに協力していけると良いと思う。

3. 観光開発の危険性

① 話は変わるが、パラオ共和国を例にとって話すと、パラオは観光で非常に発展してきている。人口が2万人ほどしかいないところに毎年10万人を超す観光客が訪れている。しかし、これは非常に危ないと感じる。なぜなら、サイパンもかつて同じ経験をしているからである。

② サイパンはかつて観光によって、10年で国家収入が20倍に膨れ上がった。だが、日本のバブル崩壊によって日本企業は撤退し、日本人はサイパンを訪れなくなった。つまり、サイパンは空洞化してしまったのである。土地を貸した人々はアメリカへ行きお金持ちとなり、一般の人々は貧しくなってしまった。一度、上げた生活レベルを下げることは悲惨なことであり、サイパンはそのような例となってしまった。パラオも同じようにならないように注意しているが、サイパンと同じ道を辿る傾向がある。

③ ミクロネシア連邦も長らく同じようにならないように踏ん張ってきたが、パラオのように観光開発が進まず、経済発展もしていない。サイパンの発展の仕方を見て、観光開発とその危険性のせめぎ合いを行っている。今後のミクロネシアの動向にも目が離せない。


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