太平洋・カリブ記者招待計画2018
今回のプログラムには、アニッシュ・チャンド氏(フィジー)、モニカ・ミラー氏(アメリカ領サモア)、カンベス・ケソレイ氏(パラオ)、キム・ブードラム氏(トリニダード・トバゴ)、ケントン・チャンス氏(セントビンセント及びグレナディーン諸島)の5名が参加しました。また、約40年にわたりアジア太平洋地域でジャーナリストとして活躍するフロイド・タケウチ氏と約30年間日本でジャーナリストとして働くドーン・マタス氏の2名のコーディネーターが参加した記者の取材、記事の作成にアドバイスを行いました。そして、今年度は、「ジャーナリズム・インターンシップ」として学生インターンを津田塾大学と上智大学から1名ずつ募り、上智大学から西崎奈央さん、津田塾大学から平澤碧惟さんが参加しました。学生インターンを受け入れたのは、学生にとって、プロのジャーナリストがどのように取材をし、記事を書くかを学ぶ機会になり、また、参加記者にとっても日本の若者の考え方に触れることが出来るという双方の効果を期待してのことです。
記者たちは毎日計画された取材スケジュールに従い、自分の関心のある事項について一日必ず1本「ストーリー」と呼ばれる記事を書くことが課されました。一日の行程を終えた後、編集会議を開き、視察内容を深めた上で「何について書くか」を話し合いました。その後、定められた時間までに記事をコーディネーターに提出することが決まりです。執筆された記事は各国の所属メディア機関を通してリリースされます。学生インターン生は取材活動、編集会議に参加、10日間の全ての行程を共にしました。そして、毎日1本のストーリーの代わりに、参加記者の人生観や人柄にフォーカスする「Profile of a Person」と呼ばれる記事を執筆しました。
プログラム初日、記者団はFPCJを訪れ、APIC佐藤嘉恭理事長、荒木恵理事・事務局長、FPCJ赤阪清隆理事長との懇談を行いました。佐藤理事長は「日本には、6,000以上の島々があり、島国として共有できる経験があるのではないか」と述べ、記者団を激励しました。その後、外務省やJICAでは、防災や環境分野における日本との協力関係についての説明を受け、熱心に議論を交わしました。気象庁では、自然管理や災害通知のシステムについて理解を深めました。
二日目は、日本の先進的な廃棄物処理を取材するため、川崎市のマンションを訪れ、住民のゴミ出しや実際のゴミ収集の現場を見学した後、分別収集された廃棄物が再資源化される資源化処理施設を訪れました。さらには古紙を利用したトイレットペーパーを生産するコアレックス三栄株式会社にて、古紙再生技術を視察しました。記者団は、同社の特殊な技術に関心を持ち、積極的に質問していました。最後に東京消防庁へ向かい、震度7の地震を実際に体感しました。
三日目の午前中は、洪水防御施設である首都圏外郭放水路を見学しました。洪水を地下に取り込むこの施設は、地下のパルテノン神殿といわれるほどの巨大な空間をもち、その規模の大きさに記者たちも驚いていました。その後、防災面で最先端の機能を備えている東京スカイツリーにて、タワーの免震構造について説明を受け、一般には非公開のタワーの支柱を視察しました。夜にはAPIC主催の夕食会が開かれました。それぞれの記者はスピーチを行い、日本での取材にかける想いを話してくれました。
(APIC主催夕食会にて)
久米島では、沖縄県海洋深層⽔研究所やクルマエビ養殖施設、海洋深層水を活用した化粧品会社、太陽光発電施設を訪れ、島全体での環境循環プログラムへの取り組みを視察しました。久米島町役場の職員との夕食交流会では、職員の方々に沖縄三線を披露していただき、記者たちには島住民の温かさを感じてもらいました。
宮城県仙台市では津波の被害を受けた震災遺構である荒浜小学校を訪問し、防災リーダーへの取材を行いました。津波避難タワーや津波避難施設として併設される海岸講演冒険あそび広場では当時の様子を振り返ると共に現在の取り組みを視察しました。
東松島市では、津波が襲った野蒜駅周辺を語り部の方と視察。河北新報社では、防災・教育室長の武田真一氏の講義を受け、防災をテーマに議論を深めました。河北新報社では、3.11後、防災・教育室を設立し、地域住民参加型の震災伝承・防災プロジェクトを立ち上げ、読者と共に考え、紙面を作っています。それに対して、コーディネーターを含めた記者たちは驚きを示していました。記者たちは「読者との距離が近くなり過ぎしまうことは、震災報道の客観性や平等性が失われてしまうのではないか。個人的な関係性を築かない方が良いのでは」と疑問を投げかけられました。そのことに対して武田氏は「人の命を守るのに、中立であることはできない。目の前に困っている人、危険に晒されている人を救わないでジャーナリズムとは呼べない」と答えました。チャンド氏は記事で「メディアの責任」という見出しでそのことについて触れ、「日本のジャーナリズムから学んだことは、ジャーナリストも人の命を守れるということだ」と述べていました。
(松島にて)
西崎 奈央
「自分がこの国の情報を人々に届ける」その責任を誰よりも強く感じている5人のジャーナリストに出会いました。
人口100万人、10万人、または2万人にも満たない彼らの国でジャーナリストはどのように働き、ジャーナリズムはどのように機能しているのだろうか、そんな想いでこのプログラムに参加しました。
パラオからの記者曰く、「記者は島に2人しかいない」とのこと。サモアからの記者も「ラジオのニュースルームには自分一人しか記者はいない。津波が起きた時は自分が人々のために情報を発信していかなければならない」と言っていました。どのジャーナリストも口をそろえて「記者になりたい若い人材を探すことに苦労する」とこぼしていました。小さなコミュニティーで記者をするということは、皆に顔を知られ、批判を直に受けるということでもあります。「ジャーナリストは時には権力に立ち向かい、人を批判するが、小さな島国ではそれが身近な人であるため時には辛辣なバッシングを受けることもある」と記者たちは言っていました。
だからこそ、人々に正しい情報を送りたいという記者の揺るぎない信念と良心が必要になります。そこに立ち向かい、長い間ジャーナリストとして活動してきた彼らからはその気概を感じました。
平澤 碧惟
今回のプログラムは、日本の防災や震災について再考するきっかけとなったと同時に、記者の卵として多くのことを学べました。特に、来日した記者たちとの交流は非常に刺激的で、記者という仕事について考える良い機会となりました。
今回の記者団の出身地である、太平洋やカリブの島々の人口は多くても200万人程度、少ない所は2万人という所もあります。当然記者の数も少なく、彼らが島の中で重要な情報源を担っていることに驚きました。彼らへインタビュー行い、それを英語でまとめる作業はとても大変でしたが、記者としての苦労や島ならではの問題、彼らの記者としての価値観など、興味深い話を聞くことができました。記事を書く際に、ベテランの記者に受けたアドバイスも一生の宝です。
また、日々のプログラムの中で、一緒に見聞きしたものが記者の手によって実際の記事になる過程を知れたことも、勉強になりました。記者によって、着目する点や使用される情報、書き方はまったく違い、一つ一つの記事が勉強の材料となりました。今回プログラムを経て、記者としての視野が広がり、将来は海外でも働いてみたいという意欲が強まりました。
(平澤さんとFPCJ赤阪理事長)
今回参加した記者たちが、日本滞在中から帰国後に執筆した記事を紹介します。(括弧内は筆者)
Japan May Consider Visa Waiver for Pacific Island Nations(Anish Chand)
Sendai is disaster-ready(Anish Chand)
Konnichiwa from Tokyo, Japan. (Monica Miller)
I survived a magnitude 7 earthquake in Japan(Monica Miller)
Making use of deep ocean water to make cosmetics(Monica Miller)
Journalist makes disaster preparedness his mission(Monica Miller)
A taste of Japanese traditions in busy Tokyo(Monica Miller)
Japan eases multiple-entry visa for Palauans(Ongerung Kambes Kesolei)
Lessons of an Eco-Town(Ongerung Kambes Kesolei)
Japan and Palau- a tale of two floods(Ongerung Kambes Kesolei)
Kumejima Model – an island move toward self-sufficiency(Ongerung Kambes Kesolei)
A resilience lesson from most unlikely place(Ongerung Kambes Kesolei)
Disaster learning centres for T&T?(Kim Boodram)
Vincy in Pacific-Caribbean Journalists Program in Japan(Kenton X. Chance)
Ingrained respect for law helps Japan’s disaster recovery(Kenton X. Chance)
SVG has Japan’s support in Security Council seat bid?(Kenton X. Chance)
Japan’s C’bean fisheries aid suggests a whaling link(Kenton X. Chance)
Kenton in Kimono(Kenton X. Chance)
For this guide, the tour is personal(Kenton X. Chance)
Lessons for SVG from Japan’s 2011 tsunami(Kenton X. Chance)
FEATURE: Caribbean countries taking more than just passing interest in tsunamis(Kenton X. Chance)
C'bean countries taking more than just passing interest in Tsunamis
‘Kawasaki!’ Is this what came to mind?(Kenton X. Chance)
Japan flood control, Japanese-style(Kenton X. Chance)
Reflections of a Vincy journalist on a Japanese island(Kenton X. Chance)
What I learnt while eating like a monk(Kenton X. Chance)
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