一般財団法人 国際協力推進協会
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インタビュー:坂本吉弘 APIC理事(一般財団法人 安全保障貿易情報センター 理事長(元通商産業省 通商産業審議官))

インタビュー:坂本吉弘 APIC理事(一般財団法人 安全保障貿易情報センター 理事長(元通商産業省 通商産業審議官))

APICが年2回発行している会報誌では、APICの活動を支える理事・評議員へのインタビュー「APIC役員に聞く」を行っております。国際社会の様々な領域で活躍された方々の経験に目を向けることで、APICが今後取り組むべき国際交流の在り方に関して大きな示唆を得ることができると感じています。
今回は、坂本𠮷弘APIC理事(一般財団法人 安全保障貿易情報センター 理事長)にインタビューをお願いし、通商産業省時代(元通商産業省審議官)のご自身の経験や外交交渉の現場で感じたことなどについてお聞きしました。【2016‎年‎2‎月‎26日実施。聞き手:APICインターン生 松河 、科埜(上智大学)】


Q.通商産業省時代、アメリカとの通商交渉を行っていく中で、どのような感想をもちましたか。

A.通商交渉で感じたことは、それが容易に政治化することです。例えば、日米繊維交渉と沖縄返還交渉がどこまで関連していたかは定かではありませんが、沖縄の返還を円滑に行うために、繊維交渉で日本側が譲歩するパーセプションが日米双方にあったように思います。当時繊維交渉を担当していた私からすれば、「なぜアメリカの理不尽な要求を受け入れなければならないのか」と思いました。でも今考えると、沖縄の返還交渉は戦後の日本にとって決定的に重要な交渉でした。

1990年代にクリントン政権ができた時の国際関係は、アメリカが長年かけてソ連を崩壊させ、冷戦を終えた直後でした。この時のアメリカの理解は、冷戦のコストを払わなかった日本が、経済的な覇権を握ろうとしているという猜疑と恐怖でした。1993年から日米フレームワーク協定が始まり、日本の経済力の源泉であった官民一体のシステムの解体が米側の狙いだったように思います。この時の自動車、同部品交渉も301条(※)による脅しがありましたが、新しくできたWTO体制で一方的な措置は違法とされたこともあり、初めて「301条を適用するならどうぞ。私たちはWTOの場で争います」と言うことができました。私たちは国際世論に向けて発信し、日本市場で米国と競合するEUに熱心に働きかけました。それが、1995年に決着した日米自動車交渉です。

翌年は、日米半導体交渉でした。協定を延長したいという米側と市場に対する政府介入を終えたい日本側とで対立しましたが、1996年7月で協定は終了しました。この時も沖縄の普天間基地の返還と絡みかけられましたが、官邸の判断で切り抜けられました。このように、通商交渉といえども、アメリカとの交渉は政治レベルの話を背負うということで、単純ではありませんでした。

※アメリカ合衆国通商法301条のこと。相手貿易国との取引上における不公平な慣行に対して、相手国と協議することを義務付け、それでも解決しない場合の制裁措置について定めた条項。


Q.外交交渉をする上で心掛けていたことについて教えてください。

A.私はかつて、知り合いのアメリカ人に言われた言葉を心掛けていました。それは、「外交交渉において、相手国の政策をいくら批判しても構わない。しかし、人や組織を批判してはいけない」ということです。何度も交渉していると、どの人が誠実で国益を考えながら公正に発言しているのか、逆に、自分の出世のために交渉を成功させることしか考えていないのか、とわかってくるものです。そういう時に、アメリカの交渉者も背後に政治的なプレッシャーを受けて大変だなと感じました。

交渉時は誠実な人と交渉しよう、しっかりとアメリカの国益を踏まえて、愛国心のある人と交渉しようと努めました。日本も日本なりに国益を考えているので、ここは譲ってもいい、ここはだめ、と考えているうちに、人間的な対立関係もできてくるし、信頼関係もできてくる。だからこそ、交渉途上で、「相手を理解して発言している」「妥協してもちゃんと中をおさめてくれる」という信頼感に基づいて、外交交渉を進めていたように思いました。

それに欧米人は、政策と人間関係の区別をしっかりしていてクールに処理するように思えます。いくら交渉で衝突しても、交渉がおわるとまったく屈託のない友人のように振る舞います。仕事とプライベートをしっかり区別していたように思います。

また、愛国心というとやや大時代的に聞こえるかもしれませんが、対外交渉をするたびに自分の背後にある産業やそこで働く人々を愛おしむ心が芽生えてきて、国を愛する心がどんどん強くなるのを感じました。苦しくてもう妥協した方が楽だと思う時もありますが、それでは日本や日本人のプライドが許さないという思いが自分を支えていたこともありました。

自分が日本人であるというアイデンティティを考える機会も多く、日本という国が繁栄していてほしい、人から尊敬される国であってほしい、と素朴な感情を持ちながら交渉していました。


Q.学生の頃はご自身の将来についてどのように考えていましたか。

A.将来の展望といったものは特にありませんでしたが、お金儲けはヘタだといわれていたので、行政官になりました。

でも役所で働いているうちに、「国を大事にしなきゃ、プライドをもって、立派な国と思われるようにしなきゃいかんなぁ」と自然に感じ始めました。職業意識みたいなものでしょうか。


Q.今後日本を担っていく学生に向けて一言お願いします。

A.一つは、20世紀に日本は大東亜戦争においてアジア諸国に帝国主義的な侵略をして、彼らの平和な生活を乱したという側面を忘れてはいけないと思います。しかし卑屈になることはありません。

一方で、日本のアジア南進が、結果的に19世紀に欧米の帝国主義が植民地化したインドやアジア諸国の独立を促す契機になったことも歴史的な事実です。また、アジアの中でいち早く工業化、産業化して欧米に伍す地位を築いたという意味で、尊敬されてます。そういう日本がこれから果たそうとする国際的な役割を、アジア諸国は期待しているところがあると思います。

国内的には格差のない公正な社会を築いて欲しい。「新自由主義」という思想は、欧米でもそろそろ限界を迎えつつあるように思います。日本はもともとみんな平等だという国です。この点は、アメリカのように貧富の格差の激しい社会はモデルにならないと思います。

私たちの若いころと違って、将来にいつも明るい展望を持つことは難しくなっているように思いますが、だからこそ、しっかり足場を固めて、公平な社会を作っていかないといけないと思います。

日本に来た外国人が一様に印象付けられるのは、日本のPeopleの素晴らしさです。日本の社会が伝統的に育んできた親切心やお客さんを大事にする態度は高く評価されています。「この地球上に災厄が襲っても、日本民族だけは生き延びてほしい」といった外国の方もいます。日本人であることに誇りを持ってほしいと願っています。


インタビュー:坂本吉弘 APIC理事(一般財団法人 安全保障貿易情報センター 理事長(元通商産業省 通商産業審議官))

【略歴】
1962年 通商産業省 入省
1980年 同省 機械情報産業局航空機武器課長
1982年 大臣官房参事官
1984年 産業政策局産業資金課長
1985年 機械情報産業局総務課長
1986年 大臣官房総務課長
1987年 通商政策局国際経済部長
1988年 資源エネルギー庁石油部長
1990年 大臣官房商務流通審議官
1991年 基礎産業局長
1992年 機械情報産業局長
1993年 通商政策局長
1994年 通商産業審議官(1996年退官)

1996年 株式会社東京三菱銀行 顧問(1998年退任)
1998年 財団法人 日本エネルギー経済研究所 理事長(2003年退任)
2000年 財団法人 大阪ガス国際交流財団 理事
2000年 財団法人 平和・安全保障研究所 理事
2001年 財団法人 世界平和研究所評議員
2003年 財団法人 経済産業調査会評議員
2003年 財団法人 日本エネルギー経済研究所 顧問
2003年 アラビア石油株式会社 代表取締役社長(2006年退任)
2004年 AOCホールディングス株式会社代表取締役社長(2006年退任)
2007年 三菱重工業株式会社 顧問
2007年 UBS証券会社 シニア・アドバイザー
2007年 三菱重工業株式会社 取締役
2010年 アクセンチュア株式会社アドバイザリー・ボード

(※ 2016年2月時点)

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