インタビュー:学校法人上智学院 髙祖敏明理事長
Q.髙祖理事長は上智大学出身ということですが、どのような学生でしたか?
私は外国語学部のドイツ語学科に入学しました。高校まで英語を学んでいましたが、これからの時代は英語だけじゃなくてもうひとつ言葉ができたらいいんじゃないか、という周りの声にのせられましてね。初めて学ぶ言葉ですので、やっぱり難しかったです。また、ある人から大学で山岳部に入ったらどうか、と誘われまして、私は一年しかいなかったんですけども、長期休暇中の合宿を含めて一年の五分の一近くは山に行っていました。でも、大学では勉強すべきだと考えていましたので、毎日朝の一時間目にあったドイツ語の授業に必死についていきましたね。
Q.上智大学の掲げる「他者のために、他者とともに」(※)の教育精神のもと、学生たちにどのようなことを学んで社会に生かしてほしいとお考えですか?
「他者のために、他者とともに」という短く、かつ含蓄のある言葉にそれがよくまとめられていると思います。
一つは、上智大学のキャンパスを地球の縮図にしたい。しかし同時に、学生や教員や職員にとってのキャンパスは、四谷だけではなく世界全体が対象で、そうしたイメージの中で学び、広い世界に自分たちが生きていくという心構えや視野、知識、技能などを身に着けてほしいと思います。地球はいわば私達人類の家なんです。地球は自分たちの家で、一緒に住んでいる私達は家族なんだ、という感覚を身に着けてほしい。自分たちの家をみんなで大事にして、これから将来を担う人たちにもこれをいい形で渡していく責任があることを考えてほしいですね。
二つ目は、歴史を通し、人は人として平等だということを確立してきましたが、しかし目を開くと、人間は、人間として平等だけども、生まれてくるのは不平等です。生まれてくる家庭も、社会層も、国も、自分が選べないものを背負いながら生まれてくるのです。この「他者のために、他者とともに」には、そういう不平等を背負って生まれてくる人たちがどうやって他人と仲間となり、一緒に生きていったらいいか、そのヒントが込められていると思います。
不平等、例えば障がいを持って生まれた人たちの場合でも、不便だけど不幸ではないと、よく言われます。それぞれが足りないところ、強いところを持っているから、一緒に協力できる、人のために働いてみようと思うことができる。それがこの言葉の中に込められていることでしょうし、それができるような学生を育てるのが上智の一つの大きな目標だと思っています。
こういう考えは、人生をかけて深め、広げていくものですので、大学ではそれにつながる知的な体験や、感動といった感情的な体験をしてほしい。そして社会に出た後、そうした体験を重ねて、壁にぶつかったり、考えたりしながら、そこに込められている意味を自分なりに探り出していく、そういうことができる生き方をする学生になってほしい。だから、この考えを完全に身に着けてから卒業するというよりも、こういう方向に向けて生きるぞっていう人を育てていくことが大切だと思います。
※上智大学の教育精神 "Men and Women for Others, with Others"
Q.2014年に上智大学がスーパーグローバル大学に選ばれましたが、このことについてどのような意義があると思われますか?
上智は創立当初から、グローバルな視野を持って誕生している大学ですので、スーパーグローバル大学といったことを改めてうたわなくてもいいんじゃないかという声もないわけじゃないんです。しかし、今の時代、グローバル化をさらに率先して進める、そしてそれが世界を繋いでいくっていう意味づけの中で、上智がスーパーグローバル大学に採択されたのは、上智にとってはありがたいことだと思います。
しかし、上智には上智の理念や目標がありますので、日本の文科省が想定しているレベルに留まらず、もっと世界とのネットワークを活用し、もっと広い視野で地球を見るといった、上智だからこそできることをするべきだと考えます。世界中の人と関わろうとすることによって、「叡智が世界をつなぐ」というミッションを実質化していく。そして、その実質化というのは、どの国もそれぞれが自分の足で歩んでいく、という方向につなげていく、それが大事なんだろうと思います。相手が自分の足で歩んでいけるような支援をしていくわけですけども、支援するだけでなくそこから同時に学ばなければならない。これって相互交流だと思うんですよ。それを上智は、スーパーグローバル大学構想の中で実現していくってことではないでしょうか。
Q.2015年から「インターンシップ科目」が始まりましたが、これに参加している学生に対し、どのような期待をお持ちですか?
まず、インターンシップは非常に大事だと思っています。これにはいくつか理由があります。今、日本で一般にインターンシップと言われているものには、一日インターンシップが多い。でもそういうのはインターンシップとは呼びたくない。インターンシップをやるんだったら、やはり内容がきちんとしたものをやるようにしたいと思います。
それから大学の先生たちの多くの研究は通常、今動いているモノを研究するのは難しい。それらについていろいろ意見はあるかもしれないけど、研究ってものは、大半の対象は3年前、5年前で止まっています。そうすると、教科書の説明は、数年前くらいまでの研究成果を中心に構成されています。しかしインターンシップなら、今動いているモノを、それを動かしている人たちの下で学べます。上智が目指している方向での仕事をしていらっしゃる機関や団体、会社などの現場で学生たちがインターンをやらせてもらえれば、今の社会がどう動き、社会がどこにいこうとしているかを学ぶことができる。これが、先ほど申し上げた、キャンパスは世界全体だよということの一つの大事な意味でもあるんです。このインターンシップで学生たちは学び、社会を、世界をよりよく知ることができ、それを通して自分の強みや弱み、自分が何に関心があるのかといったことも発見できるでしょう。そうなれば、社会を、世界を、自分を知る、ということに大きく役立つと思います。
(インタビュー中の様子)
上智は2013年に創立100周年を迎え、上智の歴史、現在のポジション、今後のミッションを、「叡智が世界をつなぐ」という言葉にまとめました。私たちも世界について思いめぐらせ、いろいろとイメージを持っていましたが、APICからザビエル高校の留学生受入の話があるまで、この太平洋地域やカリブ海の国々のことは、上智のほとんどの人の頭から抜けていたし、太平洋の中にいろんな国があり、そこに私たちと歴史的にも深い関わりがあるということについては、ほとんど意識していなかったように思います。
しかし上智のこの言葉の中には、当然これらの国々も入ってしかるべきだし、私たちがこれまで十分には意識しておらず、多くの人が目を向けていないであろう国、しかし地球を一緒に構成している仲間と、世界をつなぐと言っている私たちが手をつないでいくという点で、とても良い機会を与えて頂いたって感じです。そして驚いたことに、ミクロネシアに行っても、ジャマイカに行っても、トリニダード・トバゴに行っても、上智の卒業生がいるんです。彼らが現地の大学や大使館にいて、それぞれ勉強していたり、自分の人生プランに基づいてキャリアを積み上げたり、まさに「他者のために、他者とともに」ということを、自分の置かれた場で活かそうとしているんです。こういう出会いは、とてもうれしい体験でした。
Q.以前からAPICと上智大学は協力関係にありましたが、さらに一昨年の12月にAPICと上智大学に連携協定の締結がなされました。このことについてどのようにお考えですか?
連携協定によって、例えばミクロネシアにある短期大学と、上智大学と上智の短期大学部との学生たちの交流が可能になりました。それから、カリブ海地域も太平洋諸島も、気象変動で相当影響を受けていますよね。一方上智には、地球環境を専門にする大学院があり、その分野の研究者も結構多いんです。このような地球、人類が抱えている課題の中で、自分たちに共通する問題を一緒に研究する可能性もあるわけです。しかも日本のみでこれを研究するのではなく、他国と協力して行うというのは研究する意味でも非常に広がりがあるし、それぞれがお互いに学びあうこともできるでしょう。ですから、この連携協定というのは、教員にとっても学生たちにとってもチャンスが広がることになります。
実際に上智大学と上智の短期大学部、麗澤大学が一緒にチームを組み、ミクロネシアに行き交流を行う、ホームステイさせてもらう、そして現地の歴史や文化を学んでくるなど様々な交流を行っているし、研究の面でも環境問題を軸に交流がもうすでに始まっています。そうやって留学生を受け入れるだけに留まらない、大学の三つの役割と言われている教育、研究、社会貢献それぞれについて、APICが持っていらっしゃる様々なリソースやネットワークを、上手に上智も使わせてもらいながら、頂いた機会を使って、太平洋諸島やカリブ海地域の国々との関係を深めていき、それにより先ほど申し上げた、「叡智が世界をつなぐ」の「世界」の中に、太平洋諸島やカリブ海地域の国々にもしっかり加わってもらい、一緒に教育や研究の活動をしていく。これが実現できるという意味では非常に楽しみにしています。
Q.本年1月に、APICにより、太平洋・カリブ地域学生招聘で16名が招待(※)され、上智の学生と交流しましたが、この交流計画ついてはどのように思われますか?
上智はずっと以前からサマー・セッションという三週間の、日本の文化、政治、経済などを英語で紹介するコースを実施していて、それを冬にも行いましょうということで始めたものです。今年の一月のコースには、APICが主導してくださって、太平洋地域から8名、カリブ海の西インド諸島大学から8名が来日しました。最終日には4人一組で4つのチームになって、それぞれ日本で体験し学んだことを10分程度で紹介してくれました。私も参加したのですが、和気あいあいとして、それぞれ出身が異なる人たちが仲良くなって、パワーポイントを一緒に作って発表したり、いい学びをしたんだなあと思いました。そして、これからの時代はやっぱり若者が担っていく。そうした中で若者が自分の国しか知らないというのではなく、他の国のほぼ同世代の人たちに、顔と名前を知っている人がいるっていうのは、旅行だけでなく仕事など、何をするにしても強いと思いますよ。そういう関係を今の大学時代に、芽のようなものを作っておくのはとても大事だと思います。これは日本人の学生だけではなく、日本に来る留学生たちにも言えますね。一番最初に申し上げた、地球に住んでいるみんなが自分の仲間なんだってことを、交流を通して体験し、肌の色が、話す言葉が、動作が、やることが違うといっても、結局話してみると同じ仲間、同じ人間だな、ということをわかってほしい。そうして、やっぱり自分たちは同じ一つの地球に住んでいる仲間だっていうことが確認でき、それが安心感や信頼感につながるという意味でも大事だろうと思います。だから、そこで日本のことを学ぶこともありがたいことだし大事ですけど、それらを通して人間として信頼できる仲間ができる、あるいは発見しあうという、そちらのほうがもっと大事かなという気がしています。
※2016年1月に実施した「太平洋・カリブ学生招待計画」
【略歴】
1947年広島県江田島市生まれ。イエズス会司祭。学校法人上智学院理事長、上智大学総合人間科学部教育学科教授。上智大学、同大学院教育学専攻で学んだ後、母校の教員となり、文学部長などを経て、1999年より上智学院理事長に就任。専門は比較教育史。著書に『東洋の使徒 ザビエル』(上智大学出版)、『ルネサンスの教育思想』上、下巻(東洋館出版)等多数。現在、文部科学省「政策評価に関する有識者会議」委員、日本学術会議「大学教育の分野別質保証委員会」委員、経済同友会幹事をはじめ、多くの団体の理事・評議員等を務める。
(※ 2017年1月時点)
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