インタビュー:セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 千賀邦夫 事務局長
Q.SCJは現在どのような活動をしていますか。
SCJは、英国セーブ・ザ・チルドレン名誉総裁のアン王女が当時の美智子妃殿下(当時)にお声をかけ、(美智子)妃殿下のご友人、知人が協力・支援をなさって1986年に設立されました。現在は国際アライアンスという旗の下で、各国の政府、民間企業、市民団体など様々なステークホルダーと連携して、日本国内外で子ども支援事業を行っています。活動地域は80%がアジアに集中しており、主に教育、保健、医療、保護、緊急人道といった分野の支援を進めています。また、現在の事業はSDGs(持続可能な開発目標)の枠組みを基盤としており、全ての子どもたちに開発の恩恵が行き渡るように、経済開発だけでなく環境や社会問題を網羅し、途上国、先進国すべての国を対象とした包括的な支援を行っています。
Q.日本のNGOの状況はどうなっていますか。
NGOは、欧米では政府や企業と対等なパートナーとして考えられているのですが、日本国内ではそう認識されるまでに育っていません。一般的にはNGOはボランティアの集まりだから、それほど資金を使って大きな事業を進める必要もないのでは、などと一般的に考えられることが多く、メディアでもなかなか取り上げられないため、市民レベルでの理解を深めることに苦労をしています。
実は昨年10月に、私を含めNGOの代表3名、国会議員3名で渡米し、国務省やホワイトハウス、USAID(アメリカ合衆国国際開発庁)、NGOの方々と対話する企画がありました。アメリカでは、NGOを戦略的かつ対等なパートナーとして認めているのですね。その理由は、USAIDなどの政府機関が活動できる範囲や得られる情報と、民間団体であるNGOのそれがそれぞれ異なるため、互いに情報を提供し、協力し合いながらそれぞれの事業を補完しあって進めているところにあります。これに基づき、NGOが事業を行うための助成金で直接費だけでなく、間接費、団体の管理費を政府が提供することで、NGOが体力をつけていったのです。
一方、日本のNGOは外務省などからの助成金で賄われている場合は、間接費や管理費は対象となっておらず、事業を実施すればするほど、体力を消耗するという矛盾が生じています。またODAの分野でも、日本が出しているファンドの中で、NGOが実施した事業資金はたったの3%でしかありません。こうした状況を踏まえ、日本でもNGOとの関係を見直す動きが見られており、SCJも行政との連携の強化を進めています。
Q.国際支援は、ともすれば一方的な内政干渉に及ぶ危険性をはらんでいます。このような事態を回避するためにどのような手段を講じていますか。
セーブ・ザ・チルドレンは、世界120か国の各事務所が現地調査やヒアリングを行い、現地の人々のニーズを洗い出し、常に状況を把握することで支援の戦略を立ち上げています。また、支援計画のフレームワークを現地の人々と共有し、当事者の彼らがドライバーとして主導する仕組みを作ることで、一方的な働きかけを防いでいます。と、同時に彼らが主体的に動けるようにキャパシティビルディングの支援も行っています。
Q.SCJが考えているSDGの取り組みは何ですか。
SDGsの項目は、貧困や格差問題、気候変動など、どれを取っても解決が長期間に及ぶものばかりです。こうした問題に最も強く影響を受けるのは子どもたちであるため、彼ら自身が自らを取り巻く課題に対して知見を深めていく必要があります。SCJは彼らが主体的に課題解決に向けて対応していく体力、知力、能力を養うため、包括的な支援活動をしています。
Q.SCJは民間企業とも連携を行っていますが、実際にどのような事業を行っていますか。
企業との連携の事例としては、株式会社リコーと提携したインドでの学習支援があります。プロジェクターも売り込むだけでなく、その有効な利用ができるようSCJ側が教師に対して研修の機会を提供し、結果としてプロジェクターの売り上げとともに教育の質を高めることで、より付加価値のある取り組みを行っています。こうした企業側のCSR(企業の社会的責任)、そしてCSRの一部であるCSV(共通価値の創造)を考慮し、企業の本業に沿う形で社会貢献を行っています。
政府機関との連携事業の例では、ODAの一環として2006年にJICAを中心として新設された「コミュニティ開発支援無償」において、SCJはまだ一度だけですが「コンサルタント」として人材育成などソフトインフラ分野での支援を行いました。また、世界銀行の日本社会開発基金のように、日本政府が資金を提供する形でNGOと協力し、社会開発や貧困課題の解決に関与するプログラム連携も充実してきています。
(インタビュー中の様子)
高校卒業後、フィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学で学士を取得し、ILO(国際労働機関)マニラ事務所にて勤務。1984年にアジア開発銀行に入行。南アジア局長などの要職を歴任し、約30年間の勤務を経て、現在はセーブ・ザ・チルドレン・ジャパン事務局長として開発事業の一端を担う。なお、昨年度から上智大学国際協力人材育成センターのアドバイザリーボードに就任。
(※ 2017年1月時点)
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