インタビュー:UCC上島珈琲株式会社 代表取締役会長/在神戸ジャマイカ名誉領事 上島達司 氏
Q.レインフォレスト・アライアンス認証を受けていますが、その認証を受けるまでの過程はどのようなものでしたか。
ジャマイカのブルーマウンテンコーヒーは世界最高峰のコーヒーとして大変人気があります。この人気ブランドのコーヒーの日本への安定供給を目的に、1981年にジャマイカのブルーマウンテインエリアに農園を開設しました。日本はジャマイカブルーマウンテンコーヒーの最大の輸入国です。しかし、近年はその他の生産国でもスペシャルコーヒーが生産されるようになり、競争が激しくなってきたため、ブルーマウンテンというブランドに更なる付加価値が必要になりました。そこで、当社の農園でも国際的な地域環境保全NPO団体「レインフォレスト・アライアンス」認証の取得に目をつけたんです。
レインフォレスト・アライアンスの認証を受けるには、「農園以外で一定の森林を保持してなければならない」、「農業の永続性を確保しなければならない」、といった規定がたくさんあります。例えば、農園の中ではトラクターを使用する場合、燃料が漏れる危険があるため、燃料タンクをコンクリートで囲む必要があります。しかし、現地では環境保護の重要性も浸透していないため、そのような環境整備に誰も取り組みません。そういう意味からも、レインフォレスト・アライアンス認証の必要性を感じ、UCCがカリブ海地域で一番最初にこのような取り組みを始めたのです。
日本の消費者と現地の生産者との橋渡し役として農園を開設し、環境保全や労働環境向上という方向性を打ち出しながら、ブルーマウンテンコーヒーの価値向上のために努力してきました。その結果、現地の生産者の方々の意識が高まり、コーヒーの品質向上に対して危機感を持って取り組んでもらえるようになりました。
Q.現地の地域に対する貢献事業として、どのような取り組みを行っていますか。
現地で環境セミナーを開催したり、現地の学校の年間行事を経済的に支援したり、鉛筆を配布したりしています。
環境セミナーは、環境保護や、より品質の高いコーヒーを生産すれば、より高値で売ることが出来るということなどを、現地の方々に知ってもらうように努力しています。環境セミナーの後には、懇親会も兼ねた食事会を行うなど、交流を深める機会を積極的に設けるように心がけています。また、CSR活動の一つとしても、現地で技術指導を行っています。そこでは食の安全を保つためにも、極力、農薬を使わないようにしながら、病虫害対策をするという指導も行っています。学校への支援としては、勉強に必要な品々の提供や毎月一定額の寄付をするといった経済的支援だけでなく、UCCの農園のスペースを使って、運動会を開催してもらうということも行っています。
このような活動に取り組むと、収穫の多忙期には、みなさん手伝いに来てくれます。こうした相互のやり取りがあることにより、農園の周辺の地域とは特に、コミュニケーションが深まっています。また、コーヒーを通して障がい者の方々を支援しています。障がい者の方々がお土産品を作る学校には、コーヒーを提供しています。
Q.コーヒー豆の品質管理や品質向上のための工夫にはどのようなものがありますか。
品質管理については、CIB※というジャマイカの政府系の組織があり、品質管理と輸出手続きを担っています。このCIBでは厳しい品質基準を設けることで、品質管理を行っています。
品質向上に関しては、UCC独自で2015年から、現地の方々の協力の下、品質コンテストを開催しています。ブルーマウンテンコーヒーはジャマイカの中でも特定の地域で栽培されたものだけを指し、品質コンテストでは、その特定の地域内の農園の生産者が参加していただいています。具体的には、それらの地域を5つの地区に分け、地区ごとの生産者でグループを組んでもらい、その地域の特性を活かしたコーヒーを出品していただいています。そして、酸味、甘味、外見などを基準に点数化し、順位付けを行います。入賞者には、肥料や農機具などの賞品も贈呈し、入賞したコーヒーはUCCが輸入して日本で販売しています。
この品質コンテストは、ジャマイカのみならず、ブラジル、ハワイ、エチオピア、ベトナムなど世界中のコーヒー生産地で行っており、各生産地のコーヒーの品質向上及び良質なコーヒーの日本市場への安定供給を目的としています。また、現地の方々にも、良質なコーヒーを生産することの重要性を理解していただくいい機会になっていると思います。
※ "Coffee Industry Board" の略称
(インタビュー中の様子)
やはり、何か恩返しをしなければいけないと感じています。ブルーマウンテンコーヒーを通じて商売をさせてもらっていますので、ジャマイカと日本の双方のお役に立ちたいと思っています。そういう意味からも、先日、ジャマイカのスポーツ選手が日本の鳥取県を練習のキャンプ地として選んでくれたことは、非常に嬉しかったです。こうやってジャマイカと鳥取県の関係ができて、親交を深めていっていただけることは良いと思います。このような取り組みは、「草の根」のような活動ですが、両国の関係を深めるうえで大変重要なことになると思います。
ジャマイカへの恩返しという意味では、農園での雇用を生み出したり、新しい農事技術を紹介することができたと思います。さらには、そのコーヒーを日本で嗜好品として普及させて、日本のコーヒーファンの皆様にも喜んでいただくことが出来、両国のお役に立てたことは非常に嬉しいです。
今、世界的にコーヒー全体の消費量は増加しています。その需要に応じて、生産性も向上させる必要があります。しかし、日本人は品質に対する選別の目が厳しく、日本市場では質が伴わないと受け入れられません。だからこそ、こうした日本の消費者のニーズを現地の生産者に伝え、ジャマイカ産コーヒーの高い品質を保ちながら、生産性を向上させるよう共に努力しています。
Q.ジャマイカ名誉領事として、両国の交流・発展についてお聞かせください。
今後は、外務省が行っている施策を活用し、ジャマイカの農業をより発展させていくことを一つの目標としています。具体的には、生産性向上と消費量の増加を目指しています。数年前のハリケーンの影響で生産量が、最盛期の4分の1程度になりましたが、生産性が高まれば、更に、消費量も増え、現地の収益も上がり、生産者の活力も増すのではないかと考えています。
そもそもコーヒーの木は、7年をこえて10年近くになると、収穫量が年々落ちていきます。1本あたりの収穫量を保つためには剪定をして、生産性を高く維持していくか、状況によっては新しい木に植え替えてあげる必要があります。しかし、ジャマイカでは、コーヒー農園が山岳地帯などにあり、生産性を維持するための対策が遅れているのが現状です。UCCではコーヒーの品種はもちろん、手入れにもこだわることで、生産性の向上に努めています。
また、教育という面では、単なる技術指導で終わってしまうのはもったいないと思っています。技術を教えるだけではなく、「自分が知識を得て、それを活かして働けば、自分の国の発展につながる」ということを自覚してもらえるような教育も行っていきたいと考えています。
(左から:同行していただいた高瀬前駐ジャマイカ大使、上島会長、松尾、小原)
1961 年 甲南大学経済学部卒業
1965 年 上島珈琲株式会社 代表取締役副社長
1980 年 上島珈琲株式会社 代表取締役社長
1982 年 在神戸コロンビア共和国名誉領事館 名誉領事(至現在)
1988 年 在神戸パラグアイ共和国名誉総領事館 名誉総領事(至現在)
1996 年 在神戸ジャマイカ名誉領事館 名誉領事(至現在)
2009 年 UCC 上島珈琲株式会社 代表取締役会長(至現在)
2010 年 UCC ホールディングス株式会社 グループ代表 代表取締役会長(至現在)
(※ 2017年1月時点)
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