一般財団法人 国際協力推進協会
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インタビュー:廣野良吉 APIC評議員(成蹊大学 名誉教授)

インタビュー: 廣野良吉 APIC評議員(成蹊大学 名誉教授)

APICが年2回発行している会報誌では、APICの活動を支える理事・評議員へのインタビュー「APIC役員に聞く」を行っております。今回は廣野良吉APIC評議員(成蹊大学名誉教授)にインタビューをお願いし、ご自身の経験に基づいた国際協力への見解と、若い世代へのメッセージについてお聞きしました。【2017年7月20日実施。聞き手:APICインターン生 川上、太刀川(津田塾大学)】


Q1・廣野先生は国連や外務省などでご活躍されてきたと伺いましたが、そのような国際機関の職業に就こうと思われたたきっかけは何ですか。

きっかけは、お誘いを頂いたことでした。それを引き受けた理由は、第二次世界大戦直後から国際開発問題に関心を寄せていたからです。日本自身が、諸外国や国連、世界銀行からいろいろな支援を受けて戦後の復興を果たしました。それを受けて自分にできることは何かと言うと、恩返しという形で途上国に対して同じ様なことをやることだと思い、主に国際開発の場で働くことを決めました。国際開発の現場も様々です。大学で教えたり、論文を書いたり、あるいは国際会議に出たり。それらも重要だけど、国際機関はやはり影響力がある。そこでの議論が直接影響力を持つわけです。自分の考えを率直に皆さん方に示すことができるし、同時にそこから学ぶことができる。国際協力の問題に関して深い関心を持って取り組んできたということです。

また、戦後間もない頃みた米国映画「わが谷は緑なりき」からの衝撃的な印象が、僕の人生における環境問題への取り組みの出発点でありました。同じ時期にみたフランス映画「格子なき牢獄」から受けた自由・平等・同胞愛・反ナチズム・平和への強靭な信念に基づく徹底的な抵抗と、それを可能にする緻密な戦略・計画づくりが、僕の人生における自由・平等・民主・平和主義への出発点であったといえるでしょう。さらに、戦後占領期における経済復興、民主化への米国の絶大な支援とその支援に真正面から応えた日本人の勤勉さ、自立心、敢闘精神が、僕の人生における対途上国協力に限らず、あらゆる国際協力推進の原理原則への執着の原点となったと考えています。


Q2・評議員として、APICの活動についてどうお考えですか。

APICは、その名称が示すように、我が国の国際協力を推進するための団体です。しかし、今日の国際協力は、APIC設立当時からすると、その課題と活動分野は一層広がっている一方、他方我が国がおかれた地位や国内事情にも大きな変化があり、さらに、中国、インドといったような新興国も、その固有な理由から国際協力活動を拡大しています。このような国内外環境やニーズの大きな変化の中で、日本の国際協力政策も変貌しており、その活動の方向、規模、分野、地域、手段等も、当然20年、10年前から変わってきています。そこで、APICの国際協力活動も、その優先順位に変化が起きて来るのは当然であります。気候変動や環境問題は、途上国の貧困問題、人権問題と並んで、今や深刻な地球的課題です。南太平洋やカリブ海に浮かぶ小島嶼国にとっては死活問題であり、APICが近年この分野での協力活動を強化していることを高く評価しています。さらに、APICは今後も、その活動基本である国際協力への日本国民各層、企業の理解の増進を図っていって欲しいと思います。その意味で、今まで通り素晴らしい、有意義な早朝講演会や国際懇話会を続けると同時に、新しい枠組みとして若者との意見交換のプラットフォームを常設することが重要ではないかと思います。若者も、目前の就活やアニメだけでなく、世界に目を大きく開いて、環境や貧困、難民、安全保障など、地球社会が抱えている主要な問題に共に向き合うことが重要であり、大学の先生や政治家などの少し年代の上の人々とも話し合う、そういう場があったらと思います。若者には、世界が抱える課題に対する考え方をしっかり持って、将来を担う責任ある地球市民として、APICのプラットフォームを使って積極的に提言してほしいですね。

インタビュー: 廣野良吉 APIC評議員(成蹊大学 名誉教授)
(インタビュー中の様子)

Q3・国際協力に多く携わってこられたなかで、国際協力において大切なことは何だとお考えですか。

国際協力について大切なことは主に3つあります。1つは多様性を認め、尊重するということです。人間の社会は、人種、宗教、文化的に多様ですが、樹木、動物など自然も多様で、やはり地球上のすべての生物とその化石化した鉱物も非常に多様ですよね。国際協力はまさに多様性の上に存在するものであって、一方的に他の人々や国々に思想や制度を押し付けることではありません。相手は自分と違うんだということを十分に理解した上で、お互いに協力し合って、平和で希望に満ちた「持続可能で包摂的かつ公正な国際社会」を共に築きき上げていくことが大切ではないでしょうか。富士山へ登頂するという目標は同じであっても、上る道は多々あります。

2番目は、多様性をお互いに認め合ったたうえで、国際社会の共通な目標、例えば2030年の国際的なアジェンダとして国連が採択した「持続可能な開発目標(SDGs)2016‐30」の達成に向けて、それぞれ各人、各主体、各地域社会、各国がもっている経済・技術的、社会的、文化的な資源・資産を十分に活用するという、自立精神、自助努力が不可欠です。自助努力なき国際協力には「持続可能性」はありません。自助、共助、公助こそ、国際協力の基本的原理・原則といってよいでしょう。そこでは、平和で希望に満ちた「持続可能で包摂的かつ公正な国際社会」を共に築くために合意した不可欠な国際的ルールを厳守することが求められます。これらの国際的ルールの各人、各主体への周知徹底は、各加盟・批准国に課せられた責務であり、そのルールの違約は国際協力の否定を意味します。

そして3番目は自分の国のことを良く知り、自分なりの考えをもち、相手に正しく伝ええることです。外国の人々が私たち日本人に何を期待するかというと、それぞれの関心分野について日本の過去、現状、将来計画について知りたいんです。日本のことについて十分ないし適切程度知らずに国際協力云々なんて言っても意味ありません。国際協力に従事ないし関わる日本人は、日本の歴史、経済、社会、政治、文化、伝統など、色んなことを勉強する必要があります。読書による知識、新聞などマスコミ情報は勿論大切ですが、何よりも自らの体験を通じた自分の考えを持ち、それを正しく伝えることが不可欠です。そういう意味で、日本のことを学習し、それを正しく伝えていくコミュニケーション能力・意欲が大切だと思います。


Q4・環境問題も含めたSDGs(持続可能な開発目標)が新たに2015年に策定されましたが、この新たな目標を達成するには何が必要だとお考えですか。

SDGsの達成のためには3つの重要な点に注目する必要があります。まず第一に、世界の国々はこれまでも、直面するもろもろの共通課題に取り組んできましたが、そこで分かったことは、それぞれの国で解決すべき問題の優先順位が違うがために、各国間の協力体制が必ずしもうまく機能してこなかったといってよいでしょう。SDGsという世界の共通課題を合意・設定したからには、その課題解決にあたっては、各国が有する経済技術的、社会的、環境的、文化的条件・特質が異なることに注目して、その比較優位に基づいてWin-Win協力体制を、二国間、地域間、全世界的に構築することが重要です。そのためには、先ず近隣諸国間で、それぞれの比較優位に基づいた経済・技術・社会・環境・文化協力などを推進することが望ましく、ASEAN経済・社会協力協定は、正にその典型です。欧州連合(EU)も北米自由貿易協定(NAFTA)、南米自由貿易連合(Mercosur)も同様です。しかしSDGs達成のためには、トランプ大統領の提唱する“America First”や、近年台頭しつつあるEU諸国内での「自国ファースト」思想への連鎖反応はくい止め、国際協力を推進することが急務です。

2番目ですが、SDGsには“Leaving no one behind.”、「誰も取り残さない」という理念が根底に流れています。国のことだけでなく、一人一人個人を助けていこうという非常に重要な概念です。貧困、人権、教育、環境、自然災害などいかなる問題を見ても、最大の被害者は貧困層です。今までは「国」単位で考えられていましたが、SDGsでは社会的弱者と呼ばれる人々の被害の最小化に注目しています。そのためには、総ての国々で、政府、地方自治体、民間企業、市民団体などあらゆる主体の相互理解と協力が不可欠です。同時に、あらゆる国々の協力・パートナーシップ(SDG第17目標)が不可欠です。日本でも、そのような方向で各主体の協力関係が始まっていますが、もっともっと社会の底辺で生活している人々への支援に力を入れることが重要です。

3番目は、SDGsに先行して国連で採択され、国際社会がその達成に協力してきた「新世紀開発目標(MDGs)2005‐15」が主に途上国が直面している課題を中心としてきましたが、SDGsでは先進諸国でも直面している課題の解決にも取り組んでいます。という特徴を持っています。子供の貧困問題や若者の雇用問題、所得・地域間格差や財政赤字の拡大といった、かつて途上国の問題と言われたことが、1980年代以来の世界経済のグローバル化の中で、先進国でも益々深刻になってきています。さらに2015年秋のパリ条約締結でも明白のように、気候変動による海面の上昇、氷河の溶融や自然災害の頻発化・大型化は、先進国・途上国を問わず、今や全世界の人々が直面する深刻な問題になっていますね。この点でやはり、国家間だけではなくて、それぞれの国内でも各主体内、主体間でお互いがパートナーシップを組むことが不可欠です。そして地球市民全てにとって安全・安心・公正な平和社会の構築、あらゆる生物にとって持続可能な「碧い地球」の復元・維持のために、最大限の国内・国際協力を推進していくことが真剣に問われています。


Q5・これからの未来を担う若者に一言お願いします。

僕が若者に期待するのは、「目を世界へ開き、未知のものに挑戦せよ!」ということです。札幌農学校を創立した彼が、”Boys, Be ambitious!”という激励句を残しました。「意志あれば、路あり(Where there is a Will, there is a Way)」を信じて、いかなる困難に直面しても、諦めてはなりません。世界へ目を開いて居住地域やわが国の課題の解決に“Better Late than Never!”の精神で、真剣に取り組んでほしい。正に、Think globally, act locallyです。そして、海外へ飛躍し、日本在住の留学生や外国の方たちとも、我が国や世界が現在直面している多くの課題について、積極的に意見交換・提言・行動を共にして欲しい。かような学生がさらに増え、連携して行けば、2030年までにSDGsが目指す世界の実現も決して夢物語でもないと思います。


インタビュー: 廣野良吉 APIC評議員(成蹊大学 名誉教授)
(左から:太刀川さん、廣野良吉APIC評議員、川上さん)

【略歴】
1959-60年 カリフォルニア大学バークレー校産業関係研究所所長助手
1960-61年 日本能率協会エコノミスト
1961-98年 成蹊大学政治経済学部専任講師、助教授、経済学部教授、経済・経営研究科教授
1990-2011年 政策研究大学院大学(前埼玉大学大学院)客員教授
1998年-現在 成蹊大学 名誉教授
1999-2003年 帝京大学大学院国際文化研究科教授

(※ 2018年1月時点)

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