ミクロネシア・チャレンジ
[ミクロネシアチャレンジとは]
ミクロネシア・チャレンジとは、ミクロネシアと呼ばれる太平洋諸国の生物多様性を保全し、持続的な自然資源の利用を図るため、パラオ共和国、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国の3カ国およびグアム、北マリアナ諸島の2地域が2006年に合意したイニシアチブ(国際公約)で、それぞれの沿岸海域の30%と陸域の20%を2020年までに有効な保護下に置いて、環境保護を図ろうというものである。こうした活動のために、国毎に2020年までの積み立て目標額を設定し(ミクロネシア全体で55百万ドル)、その資金管理をミクロネシア自然保護基金(MCT)に委ねている。
[1]この活動の背景
美しい海と豊かな自然環境に囲まれ、数千の島々から構成されるミクロネシアは、地球上で一番の深海を有し、また最も降雨量の多い山が存在するなど、生物の多様性の面で世界的に貴重な地域である。他方、文化的な面では、歴史的にも、伝統的にも多くの共通のものを有し、そうした先祖伝来の慣習や風習の影響が現在の生活においても見て取れることから、訪れる多くの人を魅了している。ミクロネシアの人々は、自分たちがお互いに結び付き、土地や水がいかに重要であるか、また、素晴らしい環境を次世代に残していかなければならないという共通の認識を持っている。
このため、"We are One"(私たちは一つ)というスローガンの下、一つのミクロネシアとして共に自分たちの島、人々、伝統を守っていく決意をミクロネシア・チャレンジという形で表明したもので、次世代に奇観・景観を残そうとするものである。
[2]各国の取り組み
(1)パラオ共和国
ミクロネシアの西端にあるパラオ共和国は、200以上の島から構成されており、ミクロネシアで最も高い岩礁を有し鳥の種類も豊富である。特に、サンゴの美しさは有名で、世界的にトップクラスのスキューバダイビングやシュノーケリング・スポットとなっている。植物、爬虫類、両生類、魚類に関しても種類が多く、固有種も多く存在している。パラオでの環境保護活動は、環境保護活動というよりも、持続的な漁業の観点から漁場の制限を行って、魚類の確保を行ってきたものであるが、近年、このように従来漁労制限により保護してきた区域が、40を超える国レベルの保護区域に統合されて管理されることとなった。かかる保護区域は、パラオの沿岸の50%、陸地の20%に及んでいる。
また、パラオは伝統的なものと現代的なものを統合させた包括的な環境・政治的ネットワークである保護区域ネットワーク(PAN)を構築しており、ミクロネシア・チャレンジは、パラオのPANをモデルとして各国に広げることを目指している。
パラオの環境基金積み立て目標額は6百万ドルであるが、既に7百万ドルの積み立てが出来ていることから、10百万ドルまで引き上げることを検討している。
(2)グアム
マリアナ諸島の最西端に位置するグアムは、ミクロネシアでは最大の島で、人口17.5万人を抱え、ミクロネシアの経済の中心であるとともに、サンゴ礁の海からマングローブの湿地帯山や砂浜といった自然にも恵まれていることから、年間百万人以上の観光客が訪れる観光地でもある。しかしながら、そうした人口の増加や観光業を中心とする経済の発展が、かえって豊かな自然を脅かす脅威になっていることも事実で、近年、水質汚濁や土砂の堆積乱獲によってサンゴ礁がダメージを受けたり、乱獲によって漁獲量が減少したりする被害が出てきている。
このため、グアム政府は、アメリカ海軍や、地域コミュニティ、ボランティア、大学などと連携して、多面的なアプローチによりグアムの多様な自然や生物を保護する環境保護活動に取り組んでいる。具体的には、海岸保護区域への立ち入り許可制度の導入や観光客から”green fee”を徴収することなどが検討されている。
グアムは、目標額を2百万ドルとして環境基金を積み立てたいとしている。
(3)北マリアナ諸島
14の島々から成る北マリアナ諸島(CNMI)は、マリアナ諸島の北部に位置し、海洋650㎞、総面積470平方㎞、排他的経済水域が約200万平方㎞にもなる広大な面積を有する。中でもCNMIの中で最も大きい島であるサイパンは、観光地として有名であるが、同国経済を支えているのは観光産業といっても過言ではない。しかしながら、CNMIは、近年、開発とゴミ処理問題など、幾多の課題に直面している。人間が北部マリアナ諸島で生活を始めて2000年近くが経つが、環境に大きな変化をもたらしたものは農業で、それはこの100年のことである。この環境の変化に伴い、CNMIの固有種も変化を遂げており、現在、220余の植物のうち、固有種は約40%となっている。そのほか、CNMIには鳥類、爬虫類の固有種も存在する。現在、地球上で、絶滅の危機にあるとされているのは、植物4種類、哺乳類2種類、鳥類10種類、爬虫類2種類の、節足動物8種類の、軟体動物2種類であるが、CNMIの3つの島は、特に海鳥の棲息地として世界的に重要な島であり、この環境を保護することが喫緊の課題である。
こうした現状に対処するため、CNMIは、米国政府と共に法規制を行ったり、また、地域住民主導の活動、官民連携を通じての保護活動に取り組んだりしている。例えば、アメリカ政府は、サイパンで、湿地など保護地域を設けた自然公園管理に責任を持つほか、ロタでも同様の計画を検討しており、外来種の駆除や海洋資源の管理等は地方政府と地域組織に委ねている。また、官民連携による例としては、CNMI政府と旅行会社が取り組んだサイパン沖の小島でのオナガミズナギドリの個体数回復・啓蒙活動により、絶滅の危機に直面していたオナガミズギナドリの劇的な増加が実現した。また、観光客から直接寄付を得られる”green fees”の導入も検討している。
CNMIは、環境基金積み立て目標額を2百万ドルとしている。
ミクロネシア連邦(FSM)はヤップ、チューク、ボンベイ、コスラエの4つの州からなり、東西2,900kmにおよぶ連邦国家である。インド洋、太平洋、フィリピン海からの海流は多様な動植物の生息環境と種類の多様性を育み、例えば、サンゴは350種類以上、魚類も約1000種と、驚くほどに多様性に富んでいる。それぞれの州にはそれぞれの自治権、独自の生態環境、言語、文化があるが、連邦全体として、環境保全に取り組むことを明確にするため、伝統的な慣習と現代的な慣習が共存し、それを認めて尊重することを、憲法で明記している。しかしながら、FSM政府単独で対応するには限界があるため、州政府や住民、国際的NGOとも連携して、取り組むこととしており、1999年には、住民が環境を管理するためのネットワークを設立するという目標をFSMの環境関係者で設定し、2003年には、かかる理念実現するための包括的計画を策定し、130の地域を生物多様性区域と認定するなど、活動が具体化している。
FSMの環境基金積み立て目標額は約30百万ドルであるが、2013年末時点では、3.6百万ドルに留まっている。
本島と45の小島、14の環礁から成り立つヤップ州の環境保護への取り組みは、地域性や共同性というミクロネシアチャレンジの特性を示している。ヤップ本土の森林保護は、米国林野局の支援を受けて州政府が島全体の森林計画により管理しているが、本島北端のNimpal海峡はミクロネシア・チャレンジのインターンの支援を受けて2つの共同体が管理している。
ヤップは、また、熱帯エイの生息地としても有名で、2008年にはヤップの全沖19㎞におけるエイの生息地の保護を宣言した。ヤップの包括的な保護計画においては、不法漁獲を抑制するためのレーダーの設置や、固有種保護のための齧歯類動物の駆除、持続可能な環境保護を推進するための住民や訪問者に対する教育や意識改革計画などについても言及している。
640㎞にまたがって7つの島と約280の環礁島から成り立つチュークは、FSMの中で最大の人口を有するが、チュークの住人のほとんどが食糧と収入を海洋資源に依存している。
本島のチューク・ラグーンは、第二次世界大戦最中、80もの日本の軍艦船が沈んだ「幽霊艦隊」は、で有名であるが、これらの沈没船が、現在は人口の礁となって、サンゴや魚などを育んでいる。ラグーンには珍しい熱帯雨林が茂っており、絶滅危惧種の鳥、Chuuk Monarchなど鳥類は爬虫類の住処になっているが、今日、この熱帯雨林の乱伐採よって住処が失われた動物たちは絶滅の危機にさらされている。魚類もまた、持続性のない乱獲や、開発による土砂の堆積によって生存の危機に直面している。
チュークの人々がこの地で生計を営み、経済活動を行っていく上で、海洋体系を維持し、限られた陸地を管理していくことが極めて重要であり、そのためには、自然環境と野生動植物を保護していくことが必要である。ミクロネシア・チャレンジのイニシアチブの下で、チューク政府は多くの環境保護団体と連携して環境保護活動に取り組んでいるところである。
ポンペイ州は、首都のあるポンペイ島と周辺の島々と、環礁島から構成され、ボンベイ島にはFSMの最高峰がそびえ、年間の降雨量が760㎝と、地球上で最も雨の多い地域とも言われている。
ポンペイでは、陸と海の環境保護を一体的に取り組んでいるが、そこで判明したことは、一つの保護区域での取り組みが陸と海の生態系に影響を与えるということである。例えば、ポンペイ島から南西18キロメートルに位置するAnt環礁のラグーンでは、シャコガイが生息し、砂浜では絶滅の危機にさらされているウミガメが産卵し、森林では多種の海鳥が繁殖している。こうした州と国連、住民の取り組みが評価され、2007年には、環境保護活動の成功事例としてAnt 環礁が国連のBiophere Reserveに指定されている。このAnt 環礁Biophere Reserve(生物圏保護区)においては、保護レベルに応じて、3つの区域に分けている。1つ目の核となる区域は、危機にさらされた巣や産卵場所の厳重保護区域、2つ目は、休息地となる緩衝区域、3つ目は、管理漁業が許される移行区域となっている。このように、ボンベイ政府は、エコツーリズムや海綿養殖など、生態系を維持しつつ事業展開を図れるような産業を推進しており地域コミュニティに対して、生活の向上を図りつつ、豊かな自然を守るための方策を提供したいとしている。
コスラエ州は、コスラエ島と、それを囲む12の小島から成り立っており、青々と茂った樹木からなる山々に覆われている。いくつかの山は、海抜600mを超えるため、降雨量は多く、それが多くの川や滝を形成し、動植物に豊かな生息地を提供している。熱帯雨林やマングローブの湿地、砂浜や珊瑚礁も数多く存在し、多様な自然の豊かさはコスラエの魅力の1つといえる。
Yala湿地帯は、Terminalia carolinensisという樹木(現地語でKaと呼ばれる)の世界最大の生息地で、森林は、現地の土地所有者、政府関係機関連合、現地の保護団体の連携によって保護され、管理されている。森林管理に必要な資金は、森林所有者が政府に代わって森林管理を行うことに対して支払われるという”conservation easement(保護軽減/地役権/環境保護森林使用権)”という革新的な形で行われている。
Utwe Biophere Reserve(生物圏保護区)は以下の3つの区域に分けて管理されている。1つ目の区域は、漁業や伐採、狩猟等の収穫を禁止する核となる区域、2つ目の区域は、人間の活動が制限される緩衝区域、3つ目の区域は、持続可能な経済活動が許される移行区域である。また新規のOlum川流域プロジェクトは、現地所有者、非営利組織、行政が協力して河川流域の生態系の保護に取り組んでいる事例である。
29の代表的なサンゴ環礁礁と5つの小島から成るマーシャル諸島共和国(MRI)は、最高海抜が約10m、平均海抜は2mと、低海抜であるという特徴をもつ。
西の「ラリック(“日の入り”の意)」と東の「ラタック(“日の出”の意)」という平行した2つの列島の間に点在する環礁は、南北1,130キロメートル、東西1,290キロメートルにわたる。総陸地面積は182平方キロメートルに過ぎないが、礁湖を含めると6,500平方キロメートルを超え、さらに排他的経済水域を加えると2百万平方キロメートルに達する。その環礁林に根差した生態系は多様性に富み、絶滅危惧種とされている「Ratak Imperial Pigeon」をはじめとする固有種も多く生息している。
MRIの環境保全については、伝統的にmoと呼ばれる部族の長による制限区域の設定によって繁殖地等が保護されてきたところであるが、過去100年の間に多くの人が移住したりして、こうしたmoの伝統も失われつつある。しかしながら、近年、こうした伝統的な手法が再び評価されてきており、2009年に環境保全地域システムの確立に向けた国家の目標として決定した2009 Reimaanlok National Conservation Area Plan」においては、住民参加型の環境保護計画や運営に主眼が置かれている。
また、1940年代から50年代にかけて核実験が行われたビキニ環礁は、UNESCO世界遺産にも登録されており、放射能汚染からの生態系の回復について、示唆に富むものである。
MRIの環境基金積み立て目標額は13百万ドルであるが、2013年末時点では、3.5百万ドルとなっている。
2006年にミクロネシア・チャレンジというイニシアチブを発表して以来、保護活動と資金調達目標に向けて大きく前進しており、現在、6,800平方キロメートルにわたる150以上の保護地域を管理しているものの、目標の半分に到達していない。目標を達成するためには、保護区域を拡大し、新規の設備の導入により効果的な保護活動を行うことが必要であるが、そのためには、年間予算の増額が必要となっている。これにより、2020年までに、総面積13,500平方㎞におよぶ保護区域全域をカバーし、環境保護活動の効率化を図ることが出来る。
環境保護区域の管理費用は、年間21百万ドルと見込まれているが、現時点で確保済みの資金は年間11百万ドルで、これに調達可能と見込まれる7百万ドルを加えても、3百万ドルが不足すると見込まれている。このため、2010年、環境基金として2020年までに、ミクロネシア全体で55百万ドルを積み立てるという目標を設定しているが、現状では14百万ドルの積み立てに留まっており、不足分の41百万ドルのギャップを埋める努力をしているところである。
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